運輸安全委員会は、岐阜基地で2021年9月に発生した海上自衛隊向けP-1哨戒機が滑走路を逸脱した重大インシデントの調査報告書を公表しました。前脚部ステアリングの構成品「ステアリング・コントロール・バルブ(SCV)」内部の作動油への異物混入が原因と断定しました。異物の材質、混入の経緯は特定できませんでした。ただ、事故機は製造直後のため、SCV製造時、または機体組立工程時に混入したと推測しています。これを受け、製造する川崎重工がステアリング・システムへの異物混入の防止対策を講じています。
この重大インシデントは2021年9月7日に発生、岐阜基地の滑走路28着陸後に逸脱、停止した事案です。事故当時、右に偏向する機体に対し、機長は左ラダー・ペダルを最大にする操作を行い、「すごい偏向するな。」と発言。副操縦士も右に偏向する機体にステアリング・ホイールとラダー・ペダルを使用し、進行方向を変えようと試みたものの変化なく、逸脱を回避できないと判断してブレーキを踏みました。
ステアリング部分の分解調査で、SCVやステアリング・アクチュエーター(S-ACT)内の作動油にアルミ合金、低合金鋼、銅合金、クレスなどの異物混入と、SCVの左右の方向を決めるスプールに複数の傷が見つかりました。スプールの右側に異物が噛み込み、インシデント発生に至ったと委員会は推定しています。
これを受け、川崎重工はステアリング・システムの製造作業時に部品の洗浄作業、製造・定期修理で関連する作業時の異物混入対策を徹底する方針です。さらに、機能試験時にSCVのステアリング操作回数を増やし、異物を見逃さない取り組みを加えました。
通常、民間機の事故を扱う運輸安全委員会ですが、海上自衛隊へ納入前の新造機であったため、調査にあたりました。防衛省でも、運輸安全委員会と別に防衛装備庁調達事業部長を長とする航空事故調査委員会を立ち上げ、原因究明にあたりました。