民間旅客機として世界最大のエアバスA380型機がトゥールーズの32L滑走路から離陸、初飛行したのは2005年4月27日(水)でした。現地時間10時29分、トゥールーズの滑走路32Lを離陸し、3時間54分後に再びトゥールーズに着陸しました。初飛行を受け、エアバスが発表したプレスリリースは、「今朝、世界最大の民間航空機であるA380初号機が離陸に成功し、航空史にその出来事を刻みました」と高揚感をもって伝えています。それから16年、A380の今を振り返ります。
航空会社への初号機の納入は、2007年10月15日(月)にシンガポール航空への機体記号(レジ)「9V-SKA」でした。これを皮切りに現在まで、計15社に納入されてきました。エミレーツ航空は2008年7月、カンタス航空は2008年9月にそれぞれ初号機を受領しています。これまでに航空会社に納入された旅客機最大の4発機は246機で、さらに5機がエミレーツ航空に引き渡しされる予定です。このほか、エアバスが試験機として1機保有、2機が博物館に展示されており、製造された機体は254機です。
航空会社 | 機数 | メモ |
---|---|---|
エアバス | 3 | テスト機1機 博物館展示、2機 |
エミレーツ航空 | 123 | 現役、5機未納 |
シンガポール航空 | 24 | 12機まで機数削減 |
ルフトハンザドイツ航空 | 14 | 退役 |
ブリティッシュ・エアウェイズ | 12 | 保管 (再開予定) |
カンタス航空 | 12 | 保管 (再開予定) |
エールフランス航空 | 10 | 退役 |
エティハド航空 | 10 | 退役 |
大韓航空 | 10 | 特に発表なし |
カタール航空 | 10 | 保管 |
マレーシア航空 | 6 | 保管 (巡礼などに使用) |
アシアナ航空 | 6 | 特に発表なし |
タイ国際航空 | 6 | 保管 (経営再建) |
中国南方航空 | 5 | 現役 |
全日空 | 3 | 現役 1機はトゥールーズで保管 |
計 | 254 |
エアバスが「航空史にその出来事を刻みました」と記したように、A380は民間機としてその大きさを活かし、機内のスペース活用でさまざまなアイディアが出た機体でもあります。2階の機体前方部分は階段が設けられ、左右のスペースをうまく活用するため、ラウンジ、シャワーブースなどさまざまなアイディアにつながったとみられます。エミレーツはファーストクラスにシャワーブースを設置、エティハド航空はプライベートジェットのような空間とバトラーサービスを導入した「ザ・レジデンス」を展開。また、大韓航空は機体の1階後部に免税店を設けるなど、各社が工夫を凝らした機体でもありました。
■A380の製造終了とその未来
A380最大のユーザーであるエミレーツ航空とエアバスが2019年2月に合意し、2021年にA380製造終了が決まりました。最後の製造はすでに終え、2021年3月17日(水)にトゥールーズで最終組み立てを終えた製造番号(msn)「272」が塗装や内装仕上げ作業のため、ハンブルク工場へ移動しています。
製造中止の決定は、エアバスが販売に注力したものの、A380の受注残が積み上がらず、生産を維持する根拠がないと説明されています。受注を獲得できなかった大きな要因として、ボーイング787型機、エアバスA350型機など燃費の良い大型機の登場、そして年々高まる環境への意識変化などがあったと思われます。
この機体を購入した航空会社は、地理的に見ると、アジア7社、 ヨーロッパと中東が3社、オセアニア1社となっており、北米・南米の航空会社はありません。かつてフェデックスが貨物専用機を発注しましたが、この契約はキャンセル。アメリカを拠点に航空機リース事業を手がけていたインターナショナル・リース・ファイナンス・コーポレーション(ILFC)も発注しましたが、フェデックスへのリースも視野に入れており、結局は納入は実現しませんでした。こうしたアメリカの航空会社による導入実績がないことも製造終了に至る要因の1つに考えられます。
コロナ禍の現在、多くの航空会社が経済性を一段と重視し、A380の運航を取りやめ、駐機しています。エールフランス、ルフトハンザドイツ航空、エティハド航空は保有するA380を全て退役させる方針です。経営・社会的に厳しい状況はあるものの、乗る側からすると4発エンジンの大型機は、機内空間も広く優雅な空の旅を感じられる人気の高い機体です。
エアバスが人気あると発表しているだけでなく、航空会社のトップたちも認識しています。こうした人気を背景に、ANAをはじめ、大韓航空、アシアナ航空はA380を使用した遊覧チャーター便を運航し人気を集めています。A380を最も多く運航するエミレーツ航空は旗艦機として2030年代まで、現役で使用することを明言しています。
今後の航空機開発では、環境に優しい機体として電気飛行機、あるいは水素飛行機の開発が進んでいくでしょう。こうした動力の航空機でもA380のような巨大な旅客機、あるいはそれを上回る魅力ある機体が現れるか、将来の航空機開発を見ていく上でもA380は歴史に残る大きな指標になる機体です。