新型コロナウイルスの影響により自由に行きにくくなった海外旅行。今後ワクチン接種の促進などにより感染拡大が抑制され、海外旅行に行きやすい環境が整った時、空港でのチェックインに「IATAトラベルパス」などのデジタル健康証明アプリがニューノーマルになるかもしれません。
現在、世界の多くの国が海外からの入国者に対しPCR検査の陰性証明書の提示を求め、フライト搭乗前に航空会社がこの書類を確認しています。しかし、国や検査施設で発行される様式の異なる証明書を確認し、空港での搭乗手続きに時間がかかっています。
国際航空運送協会(IATA)の分析によると、従来の人の手を介した確認作業を継続した場合、国際線の搭乗手続きはコロナ前の約2時間前より長い時間が必要と予想しています。コロナ禍前の75%まで旅行者数が回復すると、搭乗手続きは5.5時間、コロナ前の水準に旅行者数が回復すると、8時間と試算されています。
IATAトラベルパスを含むデジタル健康証明は、信頼できる検査機関のPCR検査結果をデジタルで管理し、渡航先の入国要件を満たしているか簡単にチェックできるアプリで、検査証明が統一化され、搭乗手続きの簡素化が見込まれています。このアプリを利用し、長時間の搭乗手続きを短縮でき、旅行者にも空港・航空関係者にもメリットがあります。
デジタル健康証明アプリは、すでに複数、存在しています。世界の航空会社が試験導入を開始している「IATAトラベルパス」に加え、「コモンパス」、「VeriFLY」の主に3種類です。IATAトラベルパスは5月下旬時点で、日本航空(JAL)、全日本空輸(ANA)、シンガポール航空、大韓航空などを含む30社以上の世界の航空会社がトライアルをはじめています。主要なアプリ3種の中で最も多くの航空会社が参画し、世界の航空会社で構成する業界団体「国際航空運送協会(IATA)」のアプリとして今後、国際線を運航する航空会社の導入が進み、標準的になると考えられます。
「コモンパス」は、スイスの非営利組織「コモンズ・プロジェクト(The Commons Project)」が世界経済フォーラムと連携、推進するアプリ。JAL、ANAもトライアルを開始。こちらも世界標準規格を目指し、今後世界中の空港で利用される可能性があります。
「VeriFLY」は生体認証技術で本人認証サービスを提供するアメリカのDaon社が開発したアプリ。アメリカン航空など、主にアメリカ発着路線で運用が始まっています。
IATAトラベルパスを例として利用方法は、スマートフォンにアプリを入れ、顔写真を撮影、パスポート情報を取り込み、フライト情報を入力します。指定の医療機関で受けたPCR検査結果はアプリに送信され、これらの情報を総合し、アプリが渡航先の入国要件を満たしたか利用者に表示してくれます。空港関係者には提示するだけで、搭乗手続き、入国時の検疫もクリアできます。
チェックイン手続き、入国時の各種審査で、スタッフとの接触を避けられ、コロナ禍で重視される非接触をアプリ1つで実現。認定の医療機関との情報連携により、陰性証明書の偽造リスクも低減させています。ヨーロッパなど一部の国では今後、ワクチン接種で観光客の入国を受け入れる計画もあり、IATAトラベルパスは将来、ワクチン接種証明書のアップロードに対応する予定です。
世界の国々は感染拡大予防のため、入国時のPCR検査陰性証明書の提示のほか、14日間の隔離措置など様々な検疫措置を講じて、ウイルス流入を防いでいますが、IATAはこれが自由な旅行を妨げる要因と指摘しています。信頼できる検査結果を管理するデジタル化により、渡航先での隔離措置を撤廃につなげ、コロナ禍前と同じように航空会社が多くの人たちの移動を支え、自由な旅行ができる環境作りを目指しています。
IATAは、IATAトラベルパスの利用イメージ動画を、日本語字幕付きで配信。デジタル証明書導入の理解を深めてもらい、再びビジネス、レジャー、親戚・友人と気兼ねなく会う世界を目指しています。
■IATAトラベルパス試験導入中の航空会社一覧(2021年5月末時点) JAL ANA アゼルバイジャン航空 アビアンカ航空 イベリア航空 ヴァージン・アトランティック航空 エアセルビア エアバルティック エチオピア航空 エティハド航空 エミレーツ航空 エル・アル航空 カタール航空 ガルフエア カンタス航空 コパ航空 サウディア シンガポール航空 スイスインターナショナルエアラインズ タイ・ベトジェット タイスマイル タイ国際航空 ニュージーランド航空 ネオス フィリピン航空 ブエリング航空 ペガサス・エアラインズ マレーシア航空 ルワンダエア ロイヤルブルネイ航空 香港航空 大韓航空