みなさんは飛行機に搭乗した際、機内から眼下に広がる富士山の景色を見たことがありますか?「富士山」の最寄り空港でもある、その名を冠した「富士山静岡空港」と同空港を拠点とする、フジドリームエアラインズ(FDA)、大井川鐵道の3社が共同で「富士山遊覧フライトツアー」という商品を企画。県内の観光地も含め、その魅力を最大限に多くの人に感じてもらいたいという思いから企画されたこのツアーに、FlyTeam編集部が丸1日密着。飛行機と鉄道の「乗りもの二刀流」を満喫してきました。
■「富士山遊覧フライトツアー」が始まったきっかけ
このツアーの発案は、ネパールにある世界一の高さを誇るエベレストで実施される遊覧フライト「マウンテンフライト」がきっかけ。これを、日本の富士山でお正月など限定的に実施されている「初日の出フライト」ではなく、定期的に実施できないかという思いから、構想を開始。空からの富士山を楽しむだけでなく、日本唯一のアプト式列車(急勾配の線路を登り降りする列車)やSL(蒸気機関車)の乗車で、富士山の麓であるこの地域を満喫できるツアーが、大井川鐵道の賛同のもと企画され、2018年からスタートしました。
■ ツアーの朝は早い
富士山が一番美しく輝くのは、朝日に照らされたとき。この光景に出会うため、まずは二刀流の「飛行機」部門、富士山遊覧フライトへ。ツアーの出発は早く、JR静岡駅を5時30分に出発。無料駐車場が利用できる富士山静岡空港から参加することも可能で、その場合の集合時間は、空港の開館時間でもある6時30分です(通常は6時40分開館)。貸切ツアーのため、チェックインカウンターに並ぶ必要はなく、手渡される航空券を持って、2階の保安検査場へ進みます。富士山の標高が便名となっている「FDA3776便 静岡発 静岡行き」が、この日の同空港を出発する一番機です。
■ 静岡発 静岡行き FDA3776便
出発ゲート前で軽朝食を受け取り、7時10分ごろ6番ゲートから搭乗を開始。富士山遊覧フライトに使用される機材は、エンブラエルE175型「機体記号:JA12FJ」、ホワイト色の12号機。今回のチャーター便の運航時刻後には、複数の定期便も控えていて、ゲート付近は混雑していました。
FDAは、ブラジル・エンブラエル社製の飛行機を計16機を運航。機体は2機種あり、この日搭乗する84席仕様のE175を13機、短胴型である76席仕様のE170を3機を保有しています。エンブラエルは、ボーイング737やエアバスA320クラスの機体と、コミューター機のような小型機との中間サイズの機体を開発・製造することで、世界第3位のシェアを誇る航空機製造メーカーに成長。ブラジルの政府専用機にも採用されているほか、国内では日本航空(JAL)グループのジェイエアが32機を運航しています。
富士山を遊覧するためだけの特別チャーター便「FDA3776便」は、7時30分にゲートを離れ出発。この便を担当する添田機長より、この日は悪天候のため景色が見えない可能性がある旨の、機内アナウンスがありました。この遊覧フライトでは富士山を見ることができる確率は約85%といい、この日は残りの約15%に当たってしまいましたが、悪天候ならではの真っ白な世界のフライトを楽しめました。快晴であれば、特別な許可を得て地上約5,000m付近を飛行し、富士山に接近し、山肌がくっきり見えるほどだといいます。
飛行ルートは離陸後、駿河湾上空から大井川に沿いながら北上、赤石山脈などの南アルプスから長野県伊那市付近で折り返します。岐阜県恵那市、愛知県新城市へ南進、静岡県の浜名湖付近から静岡空港に戻る、富士山をスルーした逆に珍しいものとなりました。
機内では出発前に配られた軽朝食をいただけるほか、創業170余年 馬場製菓の静岡産茶葉を使った手作り飴がサービスされました。晴天時には雄大な富士山の姿、悪天候時には特別ルートや機長アナウンスなど、さまざまな楽しみ方があると感じました。実際、飛行機に乗るのが初めてという方もいて、ツアーガイドから「飛行機の乗り方」が説明される場面もありました。
約50分間の遊覧フライトを楽しみ、駿河湾上空から大井川河口付近を経て、富士山静岡空港へ8時30分ごろに着陸。この時点でもまだツアー序盤、ここからは二刀流の「鉄道」が登場します。ツアーバスに戻ると、FDAからシャトレーゼのお菓子や、飛行機ぬいぐるみが入ったお土産袋が用意されていました。
■ SLとアプト式列車
富士山静岡空港をあとにし、バスで大井川上流部へ。ここには静岡県初の「クールジャパンアワード 2019」を受賞した奥大井湖上駅があり、展望台から絶景を眺めたあと、奥大井の渓谷をゆっくりと走る日本唯一のアプト式列車に乗車します。
大井川鐵道は、全長65km。南アルプスあぷとラインと呼ばれるアプト式列車が走る「井川線」と、SLなどが走る「大井川本線」に分かれており、ツアーではその両方に乗車できます。途中、川根温泉ホテルに立ち寄り、静岡県の食材が提供されるランチバイキングを満喫し、ツアー最後の目玉「SL」に乗車します。SLが牽引する旧型客車も、昭和10~30年代に製造された歴史あるもの。乗っているだけでノスタルジックな雰囲気に浸ることができました。
■ 最後に
2018年からスタートした富士山遊覧フライトツアー。実施は50回を超え、3,000人近い参加者からは「また行きたい」などの声があがり、この日の参加が2回目という参加者も見られました。乗りものを堪能するのはもちろん、川根温泉ホテルのランチバイキングでは、日本有数のお茶の産地である静岡県産の緑茶を飲めるといった体験まで盛り込まれたこのツアー。筆者自身も静岡県の魅力を肌で感じ、飛行機と鉄道を満喫した、あっという間の1日となりました。
基本的に、富士山が雪をまとった紅葉が始まる10月から5月ごろまで開催されるとのこと。静岡県内からの参加はもちろん、日本各地からの参加者も増えており、今後は訪日観光客向けにもツアーを展開していきたいとしています。自然を感じながら「乗りもの二刀流」を満喫してみてはいかがでしょうか。