現在、スプリング・ジャパンと中国南方航空が就航している東京(成田)〜ハルビン線。日系航空会社が就航する唯一のハルビン発着路線ですが、実は2社間で所要時間に大きな差があることをご存知でしょうか。航空時刻表データを取り扱うOAG提供によるFlyTeamの時刻表で所要時間を確認してみると、例えば成田発ハルビン行きの場合、中国南方航空は3時間で到着する一方、スプリング・ジャパンは4時間を要しているのがわかります。まるで西村京太郎サスペンスのトリックかのような所要時間の差は、なぜ生じるのでしょうか。今回はその秘密を紐解いていきます。
■中国南方航空 東京(成田)〜ハルビン 時刻表の一部
CZ6086便 東京(成田) 12:50 > ハルビン 14:50 (金) 《所要時間:3h0m》
IJ213便 東京(成田) 06:55 > ハルビン 09:55 (月・水・木・金・土) 《所要時間:4h0m》
■鍵を握るのは、「あの超大国」
航空機のリアルタイムな位置情報を提供するFlightradar24を確認すると、所要時間が異なるカラクリが見えてきます。Flightradar24の飛行履歴では、中国南方航空のCZ6086便は離陸後北西へ。日本海上空から北朝鮮を迂回するようにウラジオストク上空を飛行し、直線的なコースでハルビンへ向かっています。一方、スプリング・ジャパンのIJ213便は成田を出発後北西へ向かい、一度韓国を横断。黄海上空で進路を北に変え、遼東半島南部を通りハルビンへ向かう遠回りなルートを選択していることがわかります。
ここで鍵となるのが、「ロシア連邦」の存在。中国系エアラインはロシア上空の飛行を継続していますが、日本を含む西側諸国はウクライナ侵攻以降、ロシア上空の飛行を見合わせ。従来から飛行できなかった北朝鮮上空だけでなくロシア上空も通ることができないため、西側へ大きく迂回する必要があるのです。
こうした、ロシア上空の迂回で特に注目されているのが、日本発着のヨーロッパ路線。シベリア上空を飛行する場合が最速の経路ですが、ロシア上空を飛行できない現状ではアラスカから北極海を経由するルートやユーラシア上空を通るルートの両方を採用。ジェット気流の向きや目的地の緯度などによって、双方の経路は航空会社や路線、ダイヤごとに使い分けられています。しかしながら、こうした“遠回り“のルートは、燃料消費の増加や航続距離の延伸につながり、航空会社にとって大きな負担となっています。
ウクライナ侵攻以降、西側諸国の航空会社がロシア上空を飛行できなくなったことで生じた「1時間」の差。2便は出発時間が異なるため、トリックとしての実用性はありませんが、その背景には緊迫した国際情勢の影響が強く表れています。世界各地の情勢が不安定となる今、一刻も早く戦争が終結することを願ってやみません。