初飛行から6年、ボーイング737 MAX 8の墜落2度・運航再開まで

初飛行から6年、ボーイング737 MAX 8の墜落2度・運航再開まで

ニュース画像 1枚目:レントンを離陸する737 MAX
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レントンを離陸する737 MAX

ボーイングが50年超にわたり、製造を続ける「ボーイング 737」シリーズの最新型として737 MAX 8型が2016年1月29日、初飛行しました。日本では全日本空輸(ANA)が役員会議で発注を決めたものの、正式契約には至っていません。日本航空(JAL)グループは、日本トランスオーシャン航空(JTA)が737-800を737 MAXへ変更するオプションは行使されず2022年現在、両グループとも導入していません。開発の正式発表から世界の航空会社から多くの受注を獲得、納入まで順調に進んだと見えたものの、4カ月で2機が墜落する痛ましい事故を起こしています。この2度の墜落事故は、ボーイングの信頼や業績を大きく揺るがしています。現在、737 MAX 8は運航を再開していますが、この一連の流れを振り返ります。

■滑り出しは順調

ボーイング737型は、1960年代に開発・製造が始まり、737-100型から737-700/-800/-900型の737NGシリーズまで半世紀にわたり製造が続けられています。737NGの後継機として2011年8月、737 MAXの開発が正式に発表されました。

737 MAXの最大の特徴は、737シリーズで最も燃費改善が意識された機種です。最新のエンジンを搭載し、ウイングレットも最新の研究を反映した形状を採用し、737NGからエンジンだけで燃費は7%削減されると謳われました。

ライバルのエアバスA320neoファミリーと受注合戦を繰り広げる中、ボーイング史上最速で受注機数を伸ばしました。正式発表から2014年5月までの約3年で2,000機の受注を獲得。燃費効率の高さ、運航効率に配慮したデジタル機器を搭載したコクピット改善が評価されました。開発は計画通り、2016年1月に初飛行が実現しました。

ニュース画像 1枚目:ボーイング 737-8-MAX
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ボーイング 737-8-MAX

■致命的な墜落事故

順調に進み、2017年5月にライオン・エア・グループのバティク・エアへの納入を皮切りに、続々と各社に引き渡しされました。ノルウェー・エア・シャトル(ノルウェイジャン)は格安航空会社(LCC)ながらヨーロッパ域内だけでなく、大西洋横断路線にもこの機材を投入。ライバルのA320neoファミリーは、ボーイングより早い2016年1月に初号機が引渡しされ、ボーイングは追いつけとばかりに、納入をペースアップし、単通路機の競争が激化していきます。

そんな中、2018年10月にライオン・エアの墜落事故が発生。空気の流れを感知し、機体の角度を測定する迎角(AoA:Angle of Attack)センサーの不具合が疑われ、アメリカ連邦航空局(FAA)が耐空性改善通報(AD)を発出。そんな中でも、737 MAXは受注機数を伸ばし、納入も続けられました。

ニュース画像 2枚目:エチオピア航空の737 MAX (事故機と同型)
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エチオピア航空の737 MAX (事故機と同型)

それから約4カ月後の2019年3月、エチオピア航空の737 MAX墜落が発生し、世界の航空当局が運航停止を指示。短期間に2機が墜落、さらにエチオピア航空はAoAセンターの不具合に対応するFAAのADの修正を済ませた後の事故でした。2件は離陸後すぐに発生しているため、事故調査ではAoAセンサーの不具合と、失速を防ぐ自動制御システム(MCAS)作動の問題点が指摘されました。

ニュース画像 3枚目:ボーイング737 MAX  コクピット
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ボーイング737 MAX コクピット
ニュース画像 4枚目:コクピットの計器、AOAセンサーの角度を右上に表示、右下で左右の違いを表示
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コクピットの計器、AOAセンサーの角度を右上に表示、右下で左右の違いを表示

事故調査が進められる中、アメリカ議会もボーイング幹部を出席させて検証を進め、問題点が露呈しました。議会調査は、開発時にボーイングが問題点を認識していたものの、ライバルのエアバスA320neoへ対抗するプレッシャーという外的要因から問題を黙認した内幕が暴露されました。

さらに、内部要因として試験飛行時にアメリカ連邦航空局(FAA)・顧客の航空会社・737 MAXのパイロットにMCASの機能を知らせなかった隠蔽体質も明るみに出ました。2020年9月に報告書がまとまる頃には、ボーイングがこれまでに築き上げた737への信頼が失墜、737 MAXの発注キャンセル、さらに業績低迷にもつながりました。

事故、運航停止後もボーイングは早期の再開を目指し737 MAXの生産を続けましたが、2020年1月に製造ラインを一時停止。その期間に作り続けられた大量の新造機が飛行場に駐機される姿は、問題が山積するボーイングの象徴として世界に伝えられるようになりました。

ニュース画像 5枚目:モーゼスレイクに駐機された大量の737 MAX
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モーゼスレイクに駐機された大量の737 MAX

■信頼回復へのあゆみ

そんな中でも現場では、FAAやヨーロッパ航空安全庁(EASA)と737 MAXの実機を使い、安全に飛行できる改修案を策定。主に、角度を測定するAoAセンサーや失速を防ぐ自動制御システム(MCAS)のソフトウェア・アップデートを含む全般的な改修、さらにパイロット訓練などが盛り込まれました。ソフトウェアが判断して飛行するだけでなく、パイロットによるマニュアル操縦の手順も確立され、この訓練と手順がマニュアルに改められました。一連の変更はFAAとEASAが確認・承認し、737 MAXの運航再開への道が開かれました。

飛行停止から20カ月を経て、ブラジルのゴル航空が2020年12月に運航を再開。それから約1年を経た2021年末には180カ国が737 MAXの運航停止を解除し、2022年1月現在は、1日1,600便程度が運航されています。2月にはエチオピア航空も運航再開を計画、ライオンエアもインドネシア航空当局の認可を受けて、再開する模様です。

737 MAXは運航停止後、初めての大型発注として2020年12月、ヨーロッパで最大の運航規模を誇るライアンエアと75機を追加契約、2021年は164機を契約しました。一方で、お膝元のアメリカの大手航空会社は、これまでボーイングの単通路機を積極的に導入してきましたが、デルタ航空は今のところ737 MAXを発注していません。日本ではボーイング737-800型を使用するANA、JAL、さらにスカイマークやソラシドエアの737 MAXへの機材更新も注目されます。

ニュース画像 6枚目:737 MAX最終組み立てを実施するレントン工場
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737 MAX最終組み立てを実施するレントン工場
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