コロナで急増するANAの退役機(2):フェリーフライトの裏側

コロナで急増するANAの退役機(2):フェリーフライトの裏側

ニュース画像 1枚目:国内線で活躍した777-300型、レジ「JA756A」 (ちいたさん撮影)
国内線で活躍した777-300型、レジ「JA756A」 (ちいたさん撮影)

新型コロナウイルスの影響で旅客需要が減少し、世界の航空会社が事業計画の変更を余儀なくされている中、ANAもボーイング777型機22機を含む中・大型機28機の早期退役を進めています。前回はコロナで急増する退役機を日本から送り出す前、舞台裏でのさまざまな手続き、準備などをお聞きしました。

ANAは中・大型機28機の早期退役を決定しており、1月には5機が羽田から出発。2月も5機程度、3月にも数機、そして3月末までに定期便で活躍した機体が運航ラインを外れ、4月以降にも続々と日本を去ります。

今回は前回の手続き・準備に続き、フェリーフライトとはどんな様子で運航されていくのか、コロナ禍だからこそ増えている業務の裏側をANAのスペシャリストの皆さんに伺いました。

<前回のレポート:コロナで急増する退役機〜ANA〜、日本から送り出す前に

<対応いただいたみなさま>
井手祐(いで・たすく)さん:ANA 調達部 航空機チーム マネジャー
山本茂治(やまもと・しげはる)さん:ANA 調達部 航空機チーム マネジャー
大沼祐介(おおぬま・ゆうすけ)さん:全日空商事 航空・電子グループ アビエーション事業部 航空機チームマネジャー
(役職・肩書は、2021年3月時点)

■フェリーフライトを運航するチーム

-空輸するスタッフはどのように決まるのですか?

ニュース画像 1枚目:退役フェリー出発前の777-200型、「JA707A」 (しゃこ隊さん撮影)
退役フェリー出発前の777-200型、「JA707A」 (しゃこ隊さん撮影)

井手さん
フェリーフライトのクルーは通常、運航乗務員2名、整備士1名、全日空商事からフライトコーディネーターとして1名、計4名のチームを組んで空輸に対応していました。現在はコロナの影響で出入国の要件が厳しくなっていることを考慮し、全日空商事のフライトコーディネーターはリモート対応で日本からサポートをしています。

運航乗務員は、売却機材の型式ライセンス保有者であっても、目的地空港についての訓練が別途必要であり、その訓練を完了した運航乗務員が売却空輸を担当します。例えば、米国モハーヴェに空輸する場合、ボーイング777型機等の大型機が着陸する滑走路には計器着陸装置(ILS)やGPSを使用した計器進入方式が設置されておらず、目視による飛行での着陸が求められます。

普段の運航においても目視飛行で着陸する機会はありますが、モハーヴェ空港は定期便で就航していない空港であり、特殊な空域特性から難しい操縦技術が求められるため、運航部門とも協力し、空輸を担当する運航乗務員はフルフライトシミュレーターを使用してモハーヴェ空港における着陸を事前に経験します。このように売却空輸といえども、安全面で万全の体制を整えています。

整備士は、売却機材の資格を持ち、売却空輸要員としてクルービザを取得したスタッフが対応します。万が一、空輸中にトラブルが発生した場合はその解決が求められたり、目的地到着後には売却前の最後の整備作業を行ったりします。資格を持つだけでなく、その機種を熟知している必要があります。そうした深い知識や経験、高い技量を持つスタッフが乗務する体制を構築しています。

■最終目的地に直行しない訳

-短距離・長距離機材に関わらず、アメリカ行きは多くがアラスカを経由しています。これには理由がありますか?

ニュース画像 2枚目:2020年6月にアメリカへフェリーされた「JA706A」、アンカレッジを経由 (頭文字Sさん撮影)
2020年6月にアメリカへフェリーされた「JA706A」、アンカレッジを経由 (頭文字Sさん撮影)

大沼さん
売却先がアメリカの場合、日本から輸出する事になり、米国入国の通関手続きを行う場所として、アンカレッジを選んでいます。ボーイング777型機の場合、航続距離が長いことから、羽田からモハーヴェまで直行で飛行できます。それでもモハーヴェでは通関手続きができないため、アンカレッジを経由する必要があります。

航続距離の短いエアバスA320型機を米国へ売却する場合は、ペトロパブロフスク・カムチャツキーのエリゾヴォ空港に給油のためテクニカル・ランディングする場合がありますが、アメリカ入国のためにアンカレッジも経由して通関手続きを経て、売却先へ向かいます。

-アラスカで通関作業をされている際、クルーの皆さんはどのように過ごしているのですか?

大沼さん
24時間ステイする場合アンカレッジでは大抵、市内のホテルに1泊しています。11月から3月の冬の時期は、マイナス20度になる日もあり厳しい気候です。この時期は降雪もあり、宿泊先から出て何か活動することはさすがにあまりありませんが、流氷見たさに散歩する強者もいらっしゃいます(笑)。

夏は涼しく、過ごしやすいこともあり、散歩、ランニングなどを楽しんだり、ショッピングに出かけたりするなど自由に過ごすことが多かったようですが、コロナ禍では出歩くことは残念ながら出来ない状況です。

■機内食アリ?ナシ?

ニュース画像 3枚目:売却空輸用に搭載された機内食(撮影:大村基嘉)
売却空輸用に搭載された機内食(撮影:大村基嘉)

-定期便に乗る楽しみの1つに機内食があります。空輸便でも機内食を搭載しているのでしょうか?

大沼さん
はい、実はANAケータリングサービスに依頼し、売却空輸用に搭載する機内食を作り、搭載しています。食中毒を発生させないために、厳格に機内食を扱う点からドライアイスを積んで飛行すること、オーブンがない機体もあるため、コールドミールが主体です。メニューは洋食・和食から選べるディナーセットと軽食としてサンドウィッチもあります。これを温めるかどうかは、クルー次第です。

ニュース画像 4枚目:売却空輸用の機内食、軽食として用意されたサンドウィッチ(撮影:大村基嘉)
売却空輸用の機内食、軽食として用意されたサンドウィッチ(撮影:大村基嘉)

クルーメンバーの好みも含め、これまでの経験や知識を活かし、どのように温めるかはフェリーする機材、その状態によってさまざま。湯煎で温めることもあれば、別の方法を考え出したりします。

フェリーフライトで何らかのトラブルがあり、クルーが一致団結して対応することもあります。そのフェリー中に温かい機内食が出てきたりすると、クルーメンバーの結束力が高まり、盛り上がることもあります。

-最終目的地に到着した後、クルーの皆さんはどうやって日本へ帰国するのですか?

ニュース画像 5枚目:モハーヴェ空港に駐機されている航空各社の機体 (masa707さん撮影)
モハーヴェ空港に駐機されている航空各社の機体 (masa707さん撮影)

井出さん
アメリカ・モハーヴェの例では、到着した際に全日空商事のスタッフに迎えに来ていただき、ロサンゼルスへ向かいます。車でおよそ2時間弱です。ロサンゼルスで1泊した後、ANAの国際線定期便で日本へ戻っています。

ー 興味深いお話お聞かせいただき、ありがとうございました!

ANAの退役を決める基準や実際の手続き、そしてフェリーフライトと一連の流れをお聞きしました。退役前の格納庫での整備、いよいよ日本を去る時の離陸など、悲しい場面を眺めることが多いものの、その準備は静かに進められ、その時を迎えているようです。

今後、3月にも数機、4月以降も退役機が続々と日本を去る予定です。これからの退役機も今、まさに準備が進められ、羽田での整備を終えて日本を後にします。コロナ前は多くのFlyTeamメンバーさんたちが羽田を出発する際の様子を投稿していますが、コロナ禍でお見送りできなくても、自宅からこれまで通り「ありがとう」と声をかけて送り出したいですね。

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