1960年から88年まで日本航空で活躍したジェット旅客機「DC-8」シリーズ。それ以前の主力機材であったプロペラ機「DC-6」「DC-7」より300km/h以上速く飛行する同機の登場は、空の旅の在り方を大きく変えることになりました。初代DC-8-32・富士号「機体記号:JA8001」の機首部分をJALが羽田空港で保存していることは知られています。しかし、機首部分のみならず、「機体全体」が海を隔てた中国・上海の地で保存・公開されていることをご存じでしょうか。
場所は地下鉄1号線、蓮花路駅(上海の中心である人民広場からは地下鉄で南下して30分程度の距離)から徒歩5分ほどの距離にある「上海航宇科普中心(shanghai Aerospace Enthusiasts Center)」という航空宇宙博物館です。周辺はマンションに囲まれ、ここに大型旅客機が保存されているとは正直思えない場所ですが、8人民元(約160円)の入場料をスマホ決済のwechatで払って中に入ると、そこには歴代の中国空軍の戦闘機が鎮座しています。更に奥に進むと、機種部分に大きく「DC8」とペイントされた、DC8-61「空の貴婦人」の姿を発見。周辺の雰囲気と博物館敷地内のギャップが凄いのですが、DC8には搭乗橋がセットされており、早速乗ってみました。
この時代のジェット機は、飛んでいるのを幼少期に見た記憶がありますが、実機に乗るのは初めて。現代のダブルアイルの中大型機材に比べると機内は小さく感じます。頭上にはオーバーヘッドビンは無く、ハットラックと呼ばれる収納棚があるだけというインテリアに驚きました。(かつては飛行機は正装で乗るものであり、帽子を置く為の棚という意味でこのように呼ばれました)
座席は後から取り付けたようですが、客室やコックピット、そしてギャレーは原型を留めてます。ドアをよく見ると「上げると開く」という日本語表記があり、備品庫には「救命筏」という表示が。極めつけはトイレに「引くと乗務員が参ります」「使用済カミソリ」「この電源はモーター式電気カミソリ以外はご使用になれません、ご不明な方は客室乗務員におたずねください」という少し古風な日本語の表記があります。カミソリの注意書きが多いのはビジネス需要が主流だったからでしょう。
日本語表記のあるこの機材は、一体どこから来たのでしょうか?
現地での説明は皆無ですが、元日本航空のJA8048なのです。同機は1971年に就航し、同社の代表的な機材として活躍。しかし、1982年にJL792便として上海虹橋空港から成田空港に向けて離陸後に油圧系統が故障し、フラップが使えない状態で虹橋空港に着陸を強行しました。結果、オーバーランして、土手に衝突するという重大事故を起こしています。
(FlyTeam公開写真より)
死者は無かったものの、怪我人多数の重大事故となり、機材の現場検証が行われました。機材は修理できない程壊れており、日本航空は所有権を放棄。当時の中国の経済状況ではスクラップするよりも何かに再利用しようということになり、修繕した上で現在の博物館の敷地に1986年に運び込まれ、1989年の博物館開館時から一般公開されています。
思わぬことで40年以上も異国の地で有効活用されている元日本航空の機材。日本でも羽田空港にJA8001の機首部分が保管されていますが、同じDC8シリーズの機材が意外な場所で保管されているということに驚きました。
願わくば旧日本航空の塗装にして欲しいところですが、難しいでしょうね。
まだ飛行機を使った移動が高嶺の花だった頃に想いを馳せながら、貴重なDC8の機内を楽しみました。
【上海航宇科普中心(shanghai Aerospace Enthusiasts Center)詳細】
住所:上海市闵行区沪闵路7900号
営業時間:9:00-16:00(毎週火曜日は閉館)
アクセス: 地下鉄1号線、蓮花路駅を下車。錦江楽園という遊園地の観覧車の方向に進み徒歩5分程度
もし上海に立ち寄る機会があれば、ぜひ訪問してみてはいかがでしょうか?