日本の南西諸島への防空任務を担当する航空自衛隊 那覇基地。担当する防空範囲がほぼ海上で、高温・高湿度という地理的要因のため、運用する航空機に対して、機体に付着する塩を落とす特別な作業“洗機”があるそうです。付着した塩を放置すると、サビや劣化が進みやすくなるとのこと。2023年夏、車の洗車ならぬ戦闘機の“洗機”を取材した様子をレポートします。
この記事の様子は、一部を動画で見ることが可能です。
空自那覇基地では近年任務が増加傾向のため、2021年より那覇空港に隣接する航空機のMRO(Maintenance Repair and Operations)サービスを提供するMRO Japanが、F-15戦闘機などの“洗機”を担当しています。MRO Japanは航空機の重整備などを専業で行う会社で、航空機に関するプロフェッショナル集団。普段は民間機の整備を行う整備士が、F-15の洗機も担当します。
今回、洗機を行うのは、第204飛行隊に所属するF-15戦闘機 910号機「航空機番号:92-8910」です。
「では早速シャワーを」、というわけにはいきません。F-15の機体には、継ぎ目や数多くの点検口、給油口、エンジン周りなど、水や洗剤などの侵入を防ぐために、マスキングを行う必要があります。丁寧に機体の継ぎ目や点検口にマスキングを施します。機体全体を複数人の整備士により、手際良く作業が進められます。その作業時間は、約30分程度。
F100エンジンのノズルにも、専用の保護カバーをかけ、水の侵入を防ぐようにマスキングが行われます。
コックピットまわりもマスキングが行われます。また、重要な計測機器(ピトー管、AOAトランスデューサ)には専用の保護カバーを装着します。
マスキングが完了するとまず水をかけ、洗剤のついたモップで機体全体の塩分や汚れを拭き取り、さらに水で綺麗に流し落とします。使用される洗剤は、ソルベントと呼ばれる有機溶剤。洗浄後の水も、そのまま排水して問題ない環境にやさしいものを使用しています。
高さが5.6mにもおよぶ垂直尾翼も、モップでゴシゴシと塩分や汚れを落とします。その尾翼には那覇基地に所属する第204飛行隊の部隊マーク「イーグルヘッド」が描かれています。
主翼の下側も、もちろん丁寧にモップで洗浄が行われます。フラップ、エルロンなどの稼働する部分も、塩分や汚れを落とします。
作業を担当するMRO Japanの整備士 塚越さんによると「下からの作業は水を被りながらで、腕の負担が大きく一番大変です。(苦笑い)」とのこと。
以上、普段は民間機の整備を行う整備士6名により、手際良く作業が進められ、モップと洗浄を含めて、約1時間30分ほどの作業でした。マスキングを含め、F-15戦闘機“洗機”の所要時間は1機あたり、約2時間程度。日々の防空任務の裏には、さまざまな作業があることを感じました。
現在、自動で洗機を行うことができる自動洗機も行われているそうです。
航空自衛隊の基地では、基地見学や航空祭などを開催しており、近くでF-15戦闘機を見学できる機会も設けられています。また12月10日(日)には「美ら島エアーフェスタ2023」が開催予定。基地に所属するF-15の展示飛行や様々な装備品展示が行われます。そして今年はブルーインパルスの飛行も計画されており、県内初の曲技飛行を実施するとのこと!さらに、MRO Japanによるトーイングカーの展示や整備士体験(有料)などのイベントブースが出展されます。ぜひ、足を運んで、洗機や整備の様子を思い出しながら見学を楽しんでみてはいかがでしょうか?