【航空自衛隊 那覇基地】F-15機付長に1日密着(3)、「故障はその場で直す」飛行後の点検とは?

【航空自衛隊 那覇基地】F-15機付長に1日密着(3)、「故障はその場で直す」飛行後の点検とは?

ニュース画像 1枚目:第9航空団 第304飛行隊 F-15戦闘機 ハンガーへ格納する整備員
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第9航空団 第304飛行隊 F-15戦闘機 ハンガーへ格納する整備員

日本の南西方面への防空任務を担当する航空自衛隊 南西航空方面隊の第9航空団 第304飛行隊 F-15戦闘機を担当する整備小隊の1日に密着する本連載。3回目(最終回)の今回は、飛行訓練から無事帰投したF-15にはどのような整備・点検が行われているのか、レポートします。

前回:【航空自衛隊 那覇基地】F-15機付長に1日密着(2)、プリタクシー・チェックから離陸へ

朝のブリーフィングから飛行前点検、プリタクシー・チェックをこなし飛行訓練にF-15を送り出しました。取材の最中にも、対領空侵犯措置(スクランブル)のため緊急発進するF-15が離陸していました。あらためて、防空任務の最前線であることを感じました。

この記事の様子は、一部を動画で見ることが可能です。

無事、飛行訓練終了

12時に始まった飛行訓練は計3回実施。最終フライトを終え、夕方17時ごろF-15が戻ってきました。1日の最終フライトが終わると、基本飛行後点検(ベーシック・ポストフライト・チェック:BPO)が行われます。

ニュース画像 1枚目:F-15を駐機ポイントへ誘導する近藤3曹
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F-15を駐機ポイントへ誘導する近藤3曹

無事に飛行訓練から戻ったF-15。整備員はまず機体を駐機ポイントへ誘導し停止させますが、この時まだエンジンは停止させません。エンジン停止の前に、空中給油口や燃料タンクなど目視チェックが行われます。異状がないことを確認すると、やっとエンジンを停止させるのです。

ニュース画像 2枚目:目視チェック後、エンジンを停止して作業開始。朝の飛行前点検に比べると、ホッとした様子で作業に取り掛かっているように感じます。
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目視チェック後、エンジンを停止して作業開始。朝の飛行前点検に比べると、ホッとした様子で作業に取り掛かっているように感じます。

基本飛行後点検(ベーシック・ポストフライト・チェック)開始

エンジンが停止すると、キャノピーを開き、ラダーをかけてパイロットが降りてきます。そこでパイロットと整備員が引き継ぎの会話を……。その様子は安全に飛行訓練が終わったことを物語っていました。この瞬間、パイロットから整備員へ“機体の責任”が移行します。

ニュース画像 3枚目:訓練飛行から戻るF-15にラダーをかける近藤3曹
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訓練飛行から戻るF-15にラダーをかける近藤3曹
ニュース画像 4枚目:F-15訓練飛行から戻り、パイロットと整備員の引き継ぎ
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F-15訓練飛行から戻り、パイロットと整備員の引き継ぎ

機体から降りたパイロットはそこで任務終了……ではなく、パイロット自身でも目視で機体の確認を行います。一方整備員は機体に異状がないか確認しながら、安全カバーや安全ピンをセットしていきます。飛行後点検では、朝の飛行前点検では行わなかった、燃料給油、電気系統のチェックが行われます。

ニュース画像 5枚目:基本飛行後点検:パイロット自身でも、目視で機体の確認
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基本飛行後点検:パイロット自身でも、目視で機体の確認
ニュース画像 6枚目:基本飛行後点検:F-15に安全カバーを取り付けている様子
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基本飛行後点検:F-15に安全カバーを取り付けている様子

機体のエンジンが停止しているため、電気系統のチェックは外部から電源を供給する必要があります。給油は準備されていた燃料車から燃料ホースを引き出し、燃料ノズルを機体の給油口に繋いで行われます。ちなみに、F-15には、灯油(ケロシン)とガソリンを混合させたジェット燃料が使われています。

ニュース画像 7枚目:電源車からケーブルを伸ばし、F-15に電気を供給します
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電源車からケーブルを伸ばし、F-15に電気を供給します
ニュース画像 8枚目:航空自衛隊那覇基地 第304飛行隊 F-15 飛行後点検(手際よく、給油が行われていきます)
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航空自衛隊那覇基地 第304飛行隊 F-15 飛行後点検(手際よく、給油が行われていきます)
ニュース画像 9枚目:F-15 給油と給電
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F-15 給油と給電

続いて整備員は機体上部に上り、2枚の垂直尾翼、主翼、スタビレーター、キャノピーなどを点検していきます。目視、触手、打音などによりネジの緩み、オイルの滲み、小さな亀裂(クラック)などのささいな異状も見逃さないように、入念に確認します。

ニュース画像 10枚目:基本飛行後点検:F-15機体に異状がない念入りに点検・チェックを行う
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基本飛行後点検:F-15機体に異状がない念入りに点検・チェックを行う
ニュース画像 11枚目:基本飛行後点検:F-15 スタビレーター、入念に異状がないか確認する
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基本飛行後点検:F-15 スタビレーター、入念に異状がないか確認する
ニュース画像 12枚目:基本飛行後点検:F-15のエンジン点検口も一つ一つ確認
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基本飛行後点検:F-15のエンジン点検口も一つ一つ確認
ニュース画像 13枚目:飛行後点検、F-15のエンジンノズル点検
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飛行後点検、F-15のエンジンノズル点検

謎の数字と「L・R」の意味とは?

F-15などの航空自衛隊の機体には、よく見ると数字と「L・R」を組み合わせた文字がマーキングされています。これには何の意味があるのでしょうか?

実はこれ、万が一機体に不具合や損傷があった場合に、正確に位置が詳細に特定できるようにこの文字が整備記録に示されるそうです。数字は、前方から後方へ大きくなり、「L」が左側、「R」が右側だそうです。航空祭では、地上展示機を間近でみれるチャンスもあるので、その際には、この番号をチェックしてみてください。

ニュース画像 14枚目:謎の番号謎の数字と「L・R」の意味とは?
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謎の番号謎の数字と「L・R」の意味とは?

主翼やキャノピーなどのチェックが終わると、整備員自らコックピットに座り、所定の位置にスイッチが戻っているかなどのチェックを手順通りに進めます。このほか、計器類や緊急脱出のための座席シートに異状がないかなども点検します。点検漏れや不具合があると、パイロットの命を脅かすことにも繋がりかねないため、一つひとつ確実に進めるそうです。

「航法灯が球切れ」その場で球交換処置

この日の飛行後点検では、訓練に参加したF-15のうち1機の、航法灯が切れていることが判明。飛行直後のF-15の尾翼に作業台を用意し、なんとその場で処置を開始します。整備員は工具を取り出すと、手慣れた様子で航法灯をあっという間に交換しました。この程度の修理は簡単なもので、すぐに直してしまうそうです。大きな修理が必要なものは、同基地に所属する支援整備を行う検査隊に引き渡されます。次の飛行に向けて、万全の準備を整えるのが、飛行後点検なのです。

ニュース画像 15枚目:F-15 尾翼の航法灯をその場で交換処置する整備員
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F-15 尾翼の航法灯をその場で交換処置する整備員
ニュース画像 16枚目:基本飛行後点検:訓練飛行後のF-15戦闘機、航法灯に安全線を巻く整備員
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基本飛行後点検:訓練飛行後のF-15戦闘機、航法灯に安全線を巻く整備員
ニュース画像 17枚目:基本飛行後点検:F-15 航法灯、ネジの緩みを一切許さない
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基本飛行後点検:F-15 航法灯、ネジの緩みを一切許さない

飛行後点検の後、最後のお仕事は?

こうして一連の飛行後点検が終了しました。F-15が飛行訓練から帰ってきてから約1時間ほどです。ようやく1日の任務を終え、点検を終えた機体を格納します。この仕事も整備員の役割です。トーイングカーにつなぎ、1機ごとに行っていきます。

ニュース画像 18枚目:航空自衛隊 那覇基地:飛行訓練を終えたF-15戦闘機
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航空自衛隊 那覇基地:飛行訓練を終えたF-15戦闘機
ニュース画像 19枚目:トーイングカーで、牽引の準備をする整備員
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トーイングカーで、牽引の準備をする整備員
ニュース画像 20枚目:プッシュバックされるF-15戦闘機
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プッシュバックされるF-15戦闘機
ニュース画像 21枚目:プッシュバックされるF-15戦闘機
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プッシュバックされるF-15戦闘機

すぐに飛行機を搬出できるように、最後はバックで格納されます。その運転は手慣れた様子で、格納庫のフロアーにマーキングされた場所にぴったり戻されます。最後に格納庫を閉め、1日の作業が終了します。本当に、お疲れ様でした!

ニュース画像 22枚目:第9航空団 第304飛行隊 F-15戦闘機 ハンガーへ格納する整備員
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第9航空団 第304飛行隊 F-15戦闘機 ハンガーへ格納する整備員
ニュース画像 23枚目:航空自衛隊 那覇基地:F-15飛行訓練、最後の1機が格納庫に
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航空自衛隊 那覇基地:F-15飛行訓練、最後の1機が格納庫に

パイロットの命を預かる整備とは?

第304飛行隊 整備小隊に密着した1日。夏の沖縄で、とてもよい天気だったということもありますが、とにかくハードで長時間気を張った1日でした。

整備員の1日は、飛行前点検(プリフライト・チェック:PR)、プリタクシー・チェック、毎飛行後点検(エブリー・ポストフライト・チェック:EPO)、基本飛行後点検(ベーシック・ポストフライト・チェック: BPO)と「同じ手順」で「同じ作業」の繰り返しです。しかし、その繰り返しに一切の慢心や妥協はなく、ささいな違和感を見逃さないプロ意識の高さには脱帽です。

F-15は普段近くで目にすることのない者からすると、その大きさと迫力に圧倒されます。その大きなF-15を隅から隅まで熟知し、パイロットの命を預かるという重圧に日々向き合う整備員。今回密着した近藤3曹、責任を背負う肩は広く、頼もしく、機付長の名を刻んだ“マイ戦闘機”を持つという使命感を、まさに背中で語っていました。

最後に、1日密着した第304飛行隊に、那覇基地ならではのお話をお聞きしました。

Q:防空任務の空域が、ほぼ海であることの苦労はありますか?

A:那覇基地は、海に隣接していることと、沖縄の高温多湿の環境から整備を行う上で、特に塩害に対する対応には苦慮していますが、洗機などの適切な整備計画および処置を実施することにより、品質の維持管理に努めています。

Q:那覇基地ではどこまで整備できますか?(支援整備)

A:点検項目はフライトした時間や暦日で適切に管理されています。計画的に整備を行い、部品や消耗品の交換、x線検査や超音波探傷などの非破壊検査、機体修理なども那覇基地内で行っています。

日本の空を守るF-15戦闘機とパイロットを、陰でしっかり支える整備員。彼らの正確な作業と責任感、パイロットらと密に連携するコミュニケーション能力の高さは、さすが“防空の最前線”といわれる那覇基地のF-15戦闘機部隊の一員だと、改めて思い知らされました。

今回取材した那覇基地では、航空祭や基地見学など一般に開放されるイベントを数多く開催しています。とくに大規模に行われる「美ら島エアーフェスタ」は、2023年12月10日(日)に開催予定です。F-15の展示飛行はもちろん、過去には「綱引き」や「エンジン取り外し展示」などが行われています。ぜひ、イベントへ足を運んで、その精強な姿を目と肌で感じてみてはいかがでしょうか?

ニュース画像 24枚目:駐機ポイントへ誘導し、F-15を停止させる近藤3曹
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駐機ポイントへ誘導し、F-15を停止させる近藤3曹
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