順風のピーチがつまずく 機長不足はLCC、航空会社全体の共通課題

順風のピーチがつまずく 機長不足はLCC、航空会社全体の共通課題

関西国際空港を拠点にする格安航空会社(LCC)のピーチは2014年4月24日、機長の病欠や採用予定数が計画を下回り、機長不足を理由に減便を発表しました。5月19日から10月25日までの期間、合計で2,088便となる見込みで、確定している5月、6月分でも関西発着8路線、448便にのぼります。

運航品質やサービス、キャンペーンなどで順風と言われていたピーチですが、ここに来て規制緩和により高齢の機長に頼った運航の弱点が露見してしまいました。これはピーチだけでなく、ジェットスター・ジャパン、エアアジア・ジャパン改めバニラエア、そして新たに就航する春秋航空日本と、日本の格安航空会社(LCC)が共通に抱える問題です。

■そもそもパイロットは足りない! 「2030年問題」

日本の航空会社に在籍するパイロットは、国土交通省の資料によると2013年1月1日現在で5,686人で、このうち機長は3,432人、副操縦士は2,254人。最も多い年齢層は41歳から47歳で、15年から20年後の不足が懸念されています。

<主要航空会社パイロットの年齢構成 (航空局資料より)>
国土交通省 航空局 第1回 乗員政策等検討合同小委員会 配付資料 2ページ

これをLCCに限定するとパイロット数は233人、うち機長が110人、副操縦士が123人で、年齢層では36歳から44歳までの山と、56歳から64歳までの山の2つに分かれます。機長はもちろん56歳から64歳までのピークに多く、若い世代は副操縦士から機長への昇格に励んでいる状況です。

<日本の格安航空会社パイロットの年齢構成 (航空局資料より)>
国土交通省 航空局 第1回 乗員政策等検討合同小委員会 配付資料 3ページ

さらに、国際的にもアジアでのLCCの興隆をはじめ、2030年には現在の2倍以上、そしてアジア・太平洋地域では2030年に現在の約4.5倍のパイロットが必要で、年間約9,000人のパイロット不足が見込まれている状況です。ボーイングなどが発表している数値でも同様です。

航空局では、航空需要予測に基づいたパイロット需要予測では2022年に約6,700人から7,300人のパイロットが必要と予測し、年間で約200人から300人の新規パイロットの採用が必要で、2030年の大量退職者を見据えると、年間400人規模のパイロット採用まで予測しています。これを「パイロットの2030年問題」としています。

■パイロット養成の施策も追いつかず!

「噂」レベルですが、エアアジア・ジャパンがバニラエアに衣替えした際、株主の全日空(ANA)は発着枠も大切ですが、最も重視した点はパイロットの確保という話もあるほど、この問題は深刻といえます。ANAは「panda Flight Academyの設立」、パイロット訓練企業「パンナム・ホールディングス」の買収などで手を打っていることからもこの「噂」は具体性が伴っています。

いずれにしろ、LCCのパイロット不足は遅からず大きな問題となってくるもの。日本でのLCCの運航開始を前に、60歳で定年を64歳まで引き上げ、さらにパイロット1人のみの制限から2人まで可能と制限を緩和し、LCCが運航しやすい土壌が作られてきました。さらに、最近では自衛隊パイロットの民間航空会社へ再就職の再開なども講じていますが、それでもパイロット不足を補うことは出来ない状況です。

本当にLCCを含めた航空会社の多頻度運航を実現するにはこれまでの航空大学校、各社の自社養成、自衛隊からの転職は着実に、かつ今以上の魅力的な環境の提供、そして当面は流動性があるものの外国人パイロットに頼らざるを得ないのが現状です。

当のピーチは2014年度下期には「稼働向上を図り、当初の計画を達成してまいりたい」としています。自社養成の機長昇格にも取り組んでいます。また、事業立ち上げ時、他社を早期退職したベテラン機長を多く採用し、若手機長の養成が課題としていました、このため、副操縦士の社内昇格訓練をLCCでは最も早く取り組んでいました。

ちなみに、エールフランス、ルフトハンザ・ドイツ航空には、それぞれおよそ300名の女性パイロットが在籍、これと比べ日本では女性のパイロットが少なく、ここに目をつけることも1つの策かもしれません。ただ、いずれも一朝一夕に解決する問題ではないことも事実で、航空業界で取り組む必要があるようです。

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