世界初の超音速旅客機Tu-144、第2世代の超音速旅客機にバトン

世界初の超音速旅客機Tu-144、第2世代の超音速旅客機にバトン

ニュース画像 1枚目:ジュコーフスキー飛行場をタキシングするTu-144LL
© 1998 NASA Photo / Jim Ross
ジュコーフスキー飛行場をタキシングするTu-144LL

今から52年前の1969年6月5日(木)、当時のソビエト連邦の威信を賭けて開発されたツポレフTu-144が初めて旅客機として音速を突破しました。世界に冠たる記録・記憶・歴史を残し、音速で飛行できる機種は数々の栄誉を手にしたものの、不遇の結末を辿りました。それでも残した爪痕は大きく、現在開発が進められている第2世代の超音速旅客機にも活かされています。

Tu-144とコンコルド

エアライナーとして初めて音速を突破したのは、機体記号(レジ)「СССР-68001」のTu-144プロトタイプ機でした。Tu-144の初飛行は1968年12月31日(火)。シェレメーチエヴォ国際空港で1969年5月20日(火)には、広く一般にお披露目されました。

ニュース画像 1枚目:離陸するTu-144LL、機首のカナードが展開していることも分かる1枚
© 1998 NASA Photo / Jim Ross
離陸するTu-144LL、機首のカナードが展開していることも分かる1枚

この後、6月5日(木)のテスト飛行でマッハ1.08を記録、さらに1970年5月25日(月)にマッハ2超えを記録しました。初の音速超えを記録した伝説のパイロット、チャック・イエーガー氏が搭乗する実験機XS-1は1947年10月14日(火)でしたから、旅客機での音速超えは21年7カ月の歳月がかかりました。

音速で飛行する旅客機と言えば、広く知られているのはコンコルドです。イギリス・フランス連合による製造で、こちらは1969年3月2日(日)に初飛行後、同年10月1日(水)に音速を突破、1970年11月4日(水)にマッハ2を超えました。

不遇たるゆえん

ニュース画像 2枚目:旅客機としては記憶、語られることの多いのはコンコルド (Gambardierさん撮影)
© FlyTeam Gambardierさん
旅客機としては記憶、語られることの多いのはコンコルド (Gambardierさん撮影)

2021年の現在に至るまで、超音速旅客機はTu-144とコンコルドの2機種しかありません。その製造機数は2機種合わせ40機未満です。プロトタイプを含み、Tu-144は17機、コンコルドは20機です。機数に大きな差はないものの、Tu-144を「不遇」という理由は、数々の悲劇が要因にあげられるでしょう。

現在でも世界的な航空機・関連展示会として名高い「パリ・エアショー」で1973年6月に墜落。超音速機開発が盛り上がり、コンコルドも展示される中でTu-144の2号機「USSR-77102」が展示飛行に望みました。しかし、その最中にル・ブルジェ近郊の村に墜落し、乗員6名に加え住民7名を巻き込む大惨事となりました。

事故を乗り越えて1975年12月26日(金)、アエロフロートで初めて定期便として使用されました。しかし、1978年5月23日(火)にはテスト機が試験飛行中に機体での火災発生を受け、不時着を試みる事故が発生。この際に乗員8名のうち2名が死亡し、同年6月1日(木)に旅客便としては運航停止。貨物便としては1983年ごろまで運航されましたが、本来の目的ではなくひっそりと退役し、現在の展示機も世界で5機とみられます。

世界各地で確認されているツポレフ Tu-144 航空フォト

ニュース画像 3枚目:2019年8月、現在の場所に移設・展示されたTu-144LL「CCCP-77114」 (しゅん83さん撮影)
© FlyTeam しゅん83さん
2019年8月、現在の場所に移設・展示されたTu-144LL「CCCP-77114」 (しゅん83さん撮影)

上記の通り、初飛行、音速超え、マッハ2とも輝かしい記録はTu-144がコンコルドより前に記録しています。しかし、本来の目的である旅客機として使用され、世界に見せた姿ではコンコルドの方が記憶に留められる機体でしょう。そうした点で、このTu-144は不遇の航空機と言えます。

第2世代へのバトン

保管されていた機体を活用し、第2世代の超音速旅客機実現に向けた研究を進めるため、アメリカ航空宇宙局(NASA)がTu-144に白羽の矢を立てました。調査飛行は1996年6月に開始され、1998年2月まで計19回、飛行しました。飛行はモスクワ近郊のジュコーフスキー空港で実施されました。

ニュース画像 4枚目:上昇するTu-144LL、主翼に左「RA」、右「77114」が確認できる
© 1998 NASA Photo / NASA
上昇するTu-144LL、主翼に左「RA」、右「77114」が確認できる

研究は実物大の超音速旅客機の飛行データを風洞、コンピューター支援技術と実際の飛行試験の結果と比較する機会となりました。飛行実験で超音速旅客機特有の空力、構造、音、動作環境に関するデータが収集されました。

ユナイテッド航空は2021年6月3日(木)、新たな超音速旅客機を最大50機購入する契約を発表しました。この機体開発を手がけるブームは、Tu-144をテスト機として集めたデータなどからの研究成果も活かし、第2世代の超音速旅客機「Overture(オーバーチュア)」として2026年の初飛行をめざしています。Tu-144、コンコルドとも課題とされた燃費の悪さ、環境面への影響軽減は、「Overture」の飛行時にはクリアすることが謳われています。

例えば、100%持続可能な航空燃料(SAF)での運航だけでなく、陸上飛行でのソニックブームの影響軽減、さらにはオゾン層の破壊など課題を解決し、市場に登場する予定です。

ニュース画像 5枚目:第2世代の超音速旅客機「Overture」 巡航イメージ
© 2021 Boom Supersonic
第2世代の超音速旅客機「Overture」 巡航イメージ

機体購入の優先権を持つ日本航空(JAL)はブームに出資し、開発を後押ししています。現在の計画では、Overtureは2025年にロールアウト、2026年に初飛行、2029年には乗客を乗せる定期便運航に至る計画です。Overtureは超音速実現にアフターバーナーは使わないなど、技術的にも興味深い取り組みを進めています。実現にはTu-144で取得されたデータなども基礎となっており、今後の開発でどのような形で活かされ、超音速旅客機が実現するか楽しみな開発です。

ニュース画像 6枚目:Overture3分の1スケールの超音速実証機 XB-1
© 2021 Boom Supersonic
Overture3分の1スケールの超音速実証機 XB-1
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